EVに有利なトルクベクタリング

Feb. 19, 2015

 

 左右のあるいは4輪にかかるトルクを独立に制御するシステム。モーター駆動のEVで積極的に採用したテスラ社。国内でもスバルなど4輪メーカーがこぞって採用しつつある。それより遥か前に4輪の独立トルク制御をSH-AWDという商標で機械式で実現したホンダ。4輪のトルクベクタリングは世界的な傾向でもある。どのようなメリットがあるのだろうか。


 SH-AWDについて説明しよう。前後のトルク配分に加えて左右の車輪へのトルク配分を電磁クラッチで旋回に合わせて制御すると、外側の車輪へのトルクが分配されることで、外側への遠心力を軽減してコーナーを安定して廻りきることができる。トルク配分は前輪で30:70から70:30まで、後輪では0:100から100:0まで変化する。SH-AWDを採用したレジェンド(KB)では4輪へのトルク配分がリアルタイム表示される。



 

 前後のトルク配分は加速時と通常の走行ではFF的な配分になるが、アクセルペダルを離すとリアのトルクが増えるのがみえて面白い。全体的にFF中心で必要に応じて後輪にトルクが分配される味付けである。左右へのスプリットトルクをきかせるには相当速度を上げてコーナーに突っ込まない限り、あるいはLSDが作用する泥道でない限りは動作が顕著でないが、山岳道路ではアクセルを踏み込んでコーナーをクリアできる安心感は他の車にはない特徴である。ホンダに限れば難点は電磁クラッチの重量である。

 

(注)後に電磁クラッチの代わりに左右2つの油圧ポンプとソレノイドバルブで湿式油圧クラッチを操作する型式で重量を抑えたものがインスパイアに装備された。

 

 スバルのレヴォーグではトルク制御を内側の車輪のブレーキ力を増すことで行なう。コントロールの限界付近では4輪個別のブレーキ制御、エンジン出力制御、AWDトルク配分制御によってアクティブ・トルク・ベクタリングを行い危険回避性能を高める。この方式だと制動力の独立制御のみで余分な機構が無い分重量的に有利となる。


 これに対しテスラ社が販売しているEVの看板モデル、モデルSの4輪駆動版では2モーターで前後車輪を独立に駆動し、トルク配分を自由に制御する。EVの弱点は航続距離にあるがモデルSでは一回の充電で500kmを走りきることと、一見したところではEVらしからぬ高級セダンのデザインで人気が高い。この場合のメリットは加速時に4輪にトルク配分するので4輪駆動の特徴である鋭い加速が可能になることで0-100km 3.4秒というスポーツカー並みの加速力を引来だしている。ただし左右のトルク制御は行なっていない。

 

 将来のEVはマルチモーター化が進むと考えられるので、最終的には4輪の独立駆動になればモーター制御のみでトルクの完全な配分が可能になる。EVの問題点、例えば充電インフラ、バッテリーコスト、充電時間など少なくないが市場の成長とともに解決される分が大きいので、EVを中心としてトルクベクタリングの実用化は増えていくに違いない。