東芝が狙う3Dメモリ事業は救世主となれるか

14.01.2016

Photo: Storage Review

 

経営危機にある東芝が堅調な医療危機部門を売却して競争の激しい半導体事業に打って出るという。東芝がリストラや売却で身を削りながらも5000億円規模の投資を行う3Dメモリ事業は救世主となり得るのだろうか。

 

半導体メモリの原理は電圧印可によるゲートのオンオフ動作で、(電源を切るとデータが消えてしまうDRAMなど)揮発性と(Flashを代表とする電源を切ってもデータが残る)不揮発性がある。不揮発性メモリではNOR型とNAND型がある。メモリセルが並列に接続されるNOR型は、読み出しが早く、ECC(エラー訂正)が必要ないためデータの信頼性が高い反面、書き込み速度が遅く、デバイスの構造上集積化が困難で、データ消去時に高い電圧が必要となる。

 

一方、NAND型は、集積化・低消費電力化が可能な反面、ECC処理を行う必要があり信頼性に劣る。フラッシュメモリはNOR型、NAND型とも書き込み・消去を繰り返すことで絶縁層が破壊されることから、書き込み回数に制限があり、永久保存には向かない。東芝が得意とするNAND型フラッシュメモリはデジタルカメラの高画素化に伴うニーズからデータ容量が増え、SDカードタイプでも64GBまで製品化されている。

 

 揮発性メモリは半導体産業の景気を左右する存在で、工場が中国・東南アジアにシフトしたことで、価格が一気に下がり採算性が低くなったため揮発性メモリ生産から日本の企業は撤退し、現在はDRAM、SRAMなど不揮発性メモリへ移行している。PCの一次メモリとして使われるDRAMも微細化により集積度を増すだけでなく、消費電力を下げ、ロジックや製造工程を減らすなど生産性・コストを下げSOI(Silicon on Insulator)基板を用いたZRAMのように、省電力の大容量RAMが必要になってきた。

 

ムーアの法則が2Dシリコンで破綻

 ムーアの法則に従った微細化が進み1970年代の10μmスケールは現在では10nmとなった。ムーアの法則に従ったと言っても実際には1世代異なるごとに露光を含めて新技術が生産プロセスに投入されて来た。世代交替に伴う技術的問題が多数発生し、生産ラインコストが急速に膨らんで半導体企業に淘汰をもたらしたが、危機が訪れるとそのたびに材料、構造、プロセスの改良で活路を見出しムーアの法則が成立してきた。

 

半導体表面の酸化膜のリーク電流が物質固有の誘電率に依存する物理限界(トンネル電流)で決まる極限の素子サイズに近づくとシリコンの限界によって、ついに微細加工の限界が見えて来た。

 

2010年1/4期では32nmまで、その後は22/20nmへさらには16/14nmに微細化が進んだ。TSMC、インテル、IBMは16nm技術のCPU生産を決定、Samsungはスマホ用CPUに14nmFinFETを一足早い生産に踏み切った。その先のステップは一社の投資では困難なほど高価で採算性が疑問視される。

 

3Dメモリの登場

最大手のフアンドリであるTSMCは2015年第4四半期に10nmプロセスの開発を着手しており、2016年第4四半期には量産を開始する。さらに7nmプロセスに10nmチップの製造設備がほぼ流用できる見通しで、2017年前半に7nmチップを予定している。しかし7nm以降は先がみえない。ということは2017年にムーアの法則が破綻するということになるが2Dシリコン素子というチャプターが幕を閉じるだけだ。微細化の限界(シリコンの限界)を打破するアイデアが3Dメモリである。

 

 

東芝は3Dメモリの研究を地道に続けてきたが、積層数によらないで露光及び加工工数を一定に保てる手法の開発に成功し、2007年に公表した。一方でメモリのコモデテイ化の採算性悪化で打撃をまともに受けたSamsungは、20nmでメモリ微細化に決別し、2013年度に東芝同様にメモリセルを垂直に積層した3D-NAND型フラッシュメモリの量産を開始した。新技術をいち早く投入するSamsungに対して、東芝の方針は3D技術の一般化であり、「積層数に依存しないメモリセルの作り方」が確立すれば、集積度はムーアの法則に再び従って増大することが可能になる。

 

半導体デバイスの高集積化は2Dから3Dに乗り換えることで、微細化からの脱却に向かうのは正解だと思える。東芝の半導体はフラッシュで持ちこたえているので、フラッシュを主体にする戦略は妥当だろう。しかし、フラッシュも書き込み回数など制限があるため、新しい構造のメモリの探索もしていく必要がある。そのためには層の厚い技術者層を維持する必要があるので工場とラボ両面へのバランスのよい投資が鍵となるだろう。

 

 

 

3D化の構造についていえば、2Dセルの積層は容易だが、柱状構造となると製造コストを含め問題があるかもしれない。ポリシリコンで柱を作るのは、酸化膜を均一に拡散させて膜厚を一定にするが、耐久性など書き込み回数がさらに下がるリスクがある。東芝はSamsungより先に量産化のめどを立てたということだが、真偽のほどは不明である。Samsungにしても量産化に先を越したとはいえ歩留まりが非常に悪いようである。現在のフラッシュ(32GBSDで5000円前後)を考えると、容量が多くなると指数的に値段も上がるので採算ベースに乗るのか疑問が多い。

 

Samsungの財務状況も相当に悪いので、液晶パネルのように低価格競争で潰しあいにはならないと思うが、主導権を握ろうとすれば色々な手法で仕掛けてくるSamsungに油断はできない。Samsungの多層構造は、チップを重ねるだけでも可能だから柱状構造のメモリを作るために設備投資するのにはリスクがあるということになる。HDDでも大容量の記憶媒体が壊れるデータが読み出せなくなると困ることからバックアップなど工夫している人が多く、それでもHDDであれば物理的に破壊されない限り読み出すことが可能であるのに対して、フラッシュの場合基本的に読み出すことは不可能になる。その点でも、フラッシュがHDDを置き換えられるのか見通しをたてる必要がある。

なお東芝の決算においてウェスチングハウスの将来性が暗い影を落としている。東芝の自社部門を売却してもウェスチングハウスは維持するのはなぜか、なぜそこまで拘るのかも疑問が多い。将来性の高い3S原子炉を捨てても米国の原子力企業を引き受けることで、政府援助が期待できると考えているなら時代錯誤の危険性がある。3Dメモリへの投資は日の丸半導体のDNAを引き継ぐ東芝にとって救世主となる日が来るのだろうか。