不活性ガス封入の優越感

May 23, 2015

Photo: GEARHEADS 


 最近性能向上のため不活性ガス中に封入するというテクノロジーが流行っている。例えば日産GTRのタイヤに窒素ガスを封入することが推奨されているし、ヘリウムを封入した高性能磁気デイスクも登場した。


 GTRのタイヤの窒素ガス充填については、諸説があるが封入されるガスが不活性つまり酸素を含まないので、内部が過酷な使用条件で加熱されても内壁のゴムと反応しない、つまり表面が酸化されて劣化するのを防ぐため、というのが1番目の効果だと思われる。また乾燥空気ならまだしもエアコンプレッサーで圧縮された空気には、待機中の水分とオイル分子の蒸気が混入している。粉体はフイルターで除去されるが、これらの「不純物」は高温、高圧で分解して、やはり表面と反応して劣化の原因となる。


 そこで通常、実験室では乾燥窒素で空気を置換する「ドライボックス」によって、酸化や水分子との反応を避ける。同じ理由でタイヤの内側をできるだけ反応から守るには乾燥窒素充填が良いのは明らか。このほか混合気体だと温度が不均一になると気体の濃度が変化してタイヤ内の圧力が均一にならなくなる。それを防ぐにも一役買っていることになる。


 GTRに乗る、ということは色々気をつかわなければならないということのようだが、一番重要なメリットはそういう車に乗っているという優越感に浸れることかもしれない。ちなみに窒素ガス充填は4本で3,000円だそうだ。できれば内部を窒素ガスで完全に置換するためには、真空引きして置換するか、置換を何度か繰り返したい。

 

 そうなると3,000円では収まらないかもしれない。窒素充填のタイヤのGTRにのる、ヘリウム封入6TB-HDDを使う、どちらも安くないが「性能」か「優越感」かもしくはどちらも、満足されるのだろうか。



 

 不活性気体で封入する技術、といえば最近磁気デイスク(HDD)をヘリウムで封入するという製品が出現した。


 デイスクの周囲をヘリウムにすることで消費電力が下がり、記録密度があげられるという。写真は6TBのHelium-HDD。消費電力が下がるのは、回転による発熱がヘリウムの熱伝導性により放熱効果が上がるということだ。記録密度があげられる理由を推測すると、回転による発熱が抑えられると、ディスクの熱歪が抑えられるのでトラック間の間隔が狭く出来ると言うことではないかと思われる。


 記録ヘッドはまだ磁気でこれからレーザ記録に移行するらしい。その時も発熱があるのでヘリウムにするメリットがあるようだ。ただし、ハーメチックシールで密閉するといっても、ヘリウム原子の大きさを考えると、抜けていくので長期間の使用に耐えられるのか不明である。


 ここで窒素ガスを使わない理由としては窒化化合物を作らないようにしているのではないか。しかしヘリウムの供給量の90%がアメリカであることを考えると、ヘリウム封入デイスクはアメリカに依存することになる。色々な思惑があると考えさせられる。

 

 現在、汎用品で2.5インチで2TBまで製品化されているので、HDDでこれ以上の高密度化が必要か疑問ではある。新しい製品を出さないと技術の衰退につながると言うのなら理解できるが、それは企業の勝手な理屈でしかない。価格が高騰しているヘリウムを使う製品ということで、GTRに乗るくらいの優越感にひたれることは確かだ。