マイノリテイレポートが現実に

May 12, 2015

Photo: Business Insider 

 

 映画「マイノリテイレポート」はトムクルーズ主演の犯罪を予知して事前に逮捕しことなきを得る未来警察を描いた2002年のSF映画である。原作がしっかりしている上にスピルバーグ監督とあって、ハイテクを駆使した近未来の警察像が描かれている。映画に登場する数々のハイテク技術の中には現実化したものもありストーリーと小道具の先見性には驚かされる。


 ストーリーの主題は”Precrime”と呼ばれる犯罪予知であるが3人の予知能力者が一致したとき確定して事前逮捕することで、犯罪率0を達成できていた。しかし予知が一致しないケースは「マイノリテイレポート」として、実行されることはなかったが、その中には僅かながら実際に起きた犯罪の鍵となる映像が予知者の脳に記憶されていた。


 ハイテクを駆使しながら予知能力に頼るところは疑問を感じる人も少なくないだろう。筆者もその一人である。しかし行き過ぎた「犯罪撲滅」のテーマはロボコップでも取り上げられ、そこでは人間の感情を捨てきれないロボット警官が凶悪な犯罪者にハイテク装備で立ち向かう。


 このたびそんな犯罪予知で犯罪撲滅を目指す会社が米国にあらわれた。犯罪予知を超能力者に任せるのでなく膨大な犯罪発生データ(ビッグデータ)からアルゴリズムで犯罪の起きそうな場所を特定し、事前に警察官が警戒するのである。”Predpol” (注1)と呼ぶソフトは過去の犯罪データを解析し警察官の巡回時に犯罪の起こりそうな区域をピックアップして、警察官の巡回時に知らせる。


(注1)PredictivePolicing Companyの略。

彼らの主張は” Only What, Where and When- Not Who”という表現そのものである。つまり過去ビッグデータの分析から犯罪予報を出すがマイノリテイレポートのように犯人を特定するものではない、としている。


 犯罪予知ではなく過去の犯罪発生データから最も起こりやすい区域を警察官が巡回するだけで大幅な犯罪発生率の低下につながるという。統計的には確かにパトカーを模した看板でも交通違反、事故が低下する。なので本物の警察官が犯罪を予見して見回りしている現場で凶行に及ぶ犯罪者はいないだろう。


 PredPolのアルゴリズムは地震予知プログラムをもとにカリフォルニアのIT企業が開発されたという。試験的な運用で犯罪発生率は下がったようで同様な試みをドイツと英国でも始める予定だという。はっきりいえば今日、盛り場で強盗に会う確率より静かな住宅地で犯罪者とは思えない「良き隣人」が突然凶行に及ぶ事件の方が、恐ろしい状況をどうソフトは分析し「予知」するのだろうか。それともマイノリテイレポートとしてかたずけるのだろうか。


 街角に張り巡らされた監視カメラの映像に犯罪者を見つけ出す顔認識ソフトも稼働しだした現在、HGウエルスの「1994年」や多くのSF映画(注2)に描かれてきた監視社会が実現しそうである。”Pedictive Policing”の先には警察の民営化があり監視社会が容易に想像できる。確かにアメリカではバーなどにオフの警察官が存在感を示している。


(注2)映画に描かれた監視社会

Enemy of America 

Eagle Eye


 しかし過去の犯罪歴で予想できる犯罪は”COPYCAT”と呼ばれる定型型の犯罪に限られる。例えば42nd streetで強盗に襲われるような場合はその場所に行くことでリスクを背負い込むが、「爆弾がいつどこに仕掛けられるか」、といった不確定要素の高い犯罪の予知は困難であることに変わりはない。


 それよりも犯罪が起こりそうな場所に乗り込む警察官は犯罪があると思い込むことで、逆に冤罪を引き起こすとしたら問題である。そもそも犯罪発生率が高い原因、貧困、をなくす方が効果的に決まっている。Predipolには将来の警察の民営化もみえかくれしている。無理にIT技術を使い犯罪予知に挑むなら少なくとも地震予知に成功した後にして欲しい。