アルゼンチン共和国対MNLキャピタルの訴訟

Aug.8, 2014

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 アルゼンチンは7月30日に、13年間で2回目の国債のデフォルト(債務不履行)に踏み切った。2001年の最初のデフォルトは、持続不可能な債務と経済不況による財政破綻が引き金となった。今回は前例のない、米最高裁判所が下した法令上で起きたデフォルトである。

 


米ヘッジ・ファンドMNLキャピトル

 2001年に対外債務返済をデフォルトした後、アルゼンチン政府は債務再編(削減)を実施した。債務者の約9割は債務返済の減額に合意したので、デフォルトは避けられると思われた。だが、エリオット・マネジメントが運営する米ヘッジ・ファンドMNLキャピトルは全額返済を求め、アルゼンチン政府に対し、ニューヨーク州連邦地裁で訴訟を起こし、11年間の法廷争いとなった。


 今年の6月に米国最高裁判所は、判決を下し、アルゼンチン政府にMNLキャピタルへの全額返済を命じた。加えて、MNLキャピタルとの和解がなければ、既に債務削減に応じたファンド以外の債務者への支払も認めないとした。さらに、今後大きな問題となるのが、米銀行がもつアルゼンチン政府が保有するアメリカにおける資産情報の開示命令が、1976年の外国主権免責法に適応しないとする判決である。詳細は法廷資料を参照のこと。

 



アルゼンチン政府の対応策

 アルゼンチン政府は判決に対して、以下の対応策を選択することになった。

 

⑴ MNLキャピタルに15億ドル(1500億円)の全額返済に応じる。この対応策で問題となるのがRUFO(right upon future offers) ルフォ条項である。RUFOが発動すると、すでに債務返済の減額に合意した債権者は2014年12月までに、MNLキャピタルと同様に全額返済を要求する権利があるとする。そうなれば、アルゼンチン政府は、総額1200から5000億ドルを支払うことになる。

 

⑵ MNLキャピタルとの交渉を申し出る。RUFO条項が発動せず、これまで通りに、MNLキャピタル以外の債権者と合意した減額を支払うことができる。MNLキャピタルとは、債務の全額返済に応じ、返済方法や期限などの交渉を行う。この策の問題は、政府に対する国民世論である。米ヘッジ・ファンドによるアルゼンチン政府の敗北と見なされ、政治的混乱の引き金となる懸念があった。

 

⑶ MNL キャピタルへの全額返済に応じない、交渉もしない。

 


アルゼンチン政府の決断

 意外な事に、アルゼンチン政府は、MNLキャピタルへの全額返済に応じない策を選択した。すでに、ニューヨークのメロン銀行に、減額に応じた債権者への支払分を入金している限り、デフォルトではないと期限日の7月30日に発表した。米法廷による法令上のデフォルトであると主張した。

 

 MNLキャピタルは、アルゼンチンの経済発展を見込んだ長期投資ではなく、いわいる「ハゲタカ」ファンドである。ハゲタカファンドはわずかな初期投資に対して、今回の判決で8億3200ドルを受け取ることになる。

 

 債務問題は解決されず、今後、アルゼンチンが直面するのは、グローバル市場での資金調達の混乱である.財政状況はさらに悪化し、社会不安や混乱がおきるであろう。このデフォルト事件は特に、外国投資、外国資金調達を必要とする新興国、米国の金融システムと法律制度に多くの課題をのこした。

 

UPDATE Aug. 7, 2014

 アルゼンチン共和国は国際司法裁判所に米国政府を提訴した。