原油価格下落のシナリオ

Jan. 29, 2015

 

 原油価格下落についてメデイアはその原因と背景について、ほぼ一致した見解をとっている。それはしかし表面的すぎるかも知れない。まず原油価格の下落は基本的に需要の減少と供給過多の相乗効果としている。需要の減少とは中国を筆頭とする新興国の経済成長の鈍化による分に、先進国の経済回復の遅れが加わったものである。


変わらない石油需要

 世界の原油輸入量は2013年度にはまだ米国が1位で、2-4位がアジア諸国で中国、日本、インドの順になる。これらのアジア諸国で際立つのは中国で、世界第2位の消費国で輸入量の伸び率8%を原油価格の下落に乗じて18%にもなった。つまり中国需要は減っていない。安値に乗じて備蓄に余念がないことは、日本が安値にも関わらず昨年から輸入量を20%近く減らしているのと好対照だ。このことは中国の原油輸入の減少が供給過多の主な理由にならないことを意味している。

 


 一方、OPECの主権を握るサウジアラビアが採掘ピークを越えて国内需要が急上昇して原油輸出キャパシテイに陰りがみられる。サウジアラビアの人口増加と経済発展に伴い国内エネルギー消費も上昇した結果、国内消費が生産量に迫りつつある。中東諸国の消費増加とアジア諸国のエネルギー不足は明らかであり、エネルギー消費で米国に迫る勢いの中国を追うインドが、エネルギー消費でも中国に追いつくと考えられる中で、中国減速を考慮にいれても二国の人口25億人を支えるエネルギー源として、原油の需要が供給を下回ることはありそうにないのである。

 


バランスを壊す供給過多

 では供給過多のシナリオはどうだろうか。米国内のシェールオイル生産量は420万バレル/日に達し輸入量を上回った。ちなみにピークを過ぎたサウジアラビアの原油生産量は1200万バレル/日である。2000年前半に天然ガス価格が上昇するとこれに呼応するように、シェールガス生産に拍車がかかった。

 


 2009 年に誕生したオバマ政権発足時に風力、ソーラーといった再生可能エネルギーの利用促進や投資を弱体化した実体経済の景気回復、雇用創出の柱の一つとして位 置づける政策を掲げた。しかしやがて再生利用エネルギーの拡大は時間がかかることから、「クリーンエネルギー」に原子力、天然ガス、クリーンコールを加え て、現実路線をとることに政策を変換した。何でもありのクリーンエネルギーへの投資拡大、利用促進を図ることで、エネルギー供給の安定化と自立を図る戦略となった。



 

原油産出の新勢力たち

 世界的な天然ガス価格の高騰傾向もひとつの要因ではあるが、相次ぐ中東への軍事介入の失態は米国を孤立化させ財政を圧迫すると同時に、エネルギー戦略において輸入すなわち中東依存からの脱却を目指すきっかけとなったとみるべきであろう。シェールオイルの歴史は意外と古い。水圧破砕の技術的課題も徐々に克服していたシェールガス業界は政府先導の大規模投資により、採掘規模を上げて採算をとる米国流の規模拡大で、よって弱小業者の自然淘汰や環境保全の問題を生じつつも、シェールオイルと天然ガス生産は急速に拡大した。

 

 一方で原油産出国側の潜在勢力地図も大幅に書き換えられつつある。2014年末のカナダの原油生産量は、サウジアラビア、ロシア、アメリカの御三家に次いで世界第4、5位は中国、カナダとなった。カナダオイルサンドと米国シェールオイルで北米地区の増産、南米ベネズエラの油田開発が軌道に乗ったことで埋蔵量世界1のベネズエラは11位に頭角を現し、中東勢の一極集中に陰りがみえている。

 

 



価格下落の意図とは

 OPEC総会でサウジアラビアが減産に踏み切らなかったことで、下げ止まりの希望は打ち消された。昨年末に、原油価格(北海ブレント)の13%下落を受けて、ルーブルは23%急落したが、ロシア中央銀行の政策金利引き上げも効果なく、1ドル=70ルーブル台でGDP(国内総生産)の75%を石油と天然ガスに依存するロシア財政に打撃を与えた。ウクライナ問題の経済制裁も加わってロシア経済は窮地に追い込まれた。

 

 メデイアの一致した見方は原油価格下落はシェールオイル潰しという親米的なシナリオである。だが果たしてそうだろうか。供給過多が主な原因であるとするならば、それはシェールオイルの一方的な増産であるので、シェールオイル側を被害者とする見方は疑問が残る。被害のもっとも大きい国はどこかと考えると隠されたシナリオが見え隠れする。

 

 

ロシア、ベネズエラ潰しというシナリオ

 原油価格の異変で最も影響を受ける国が被害者、利益を得る国が加害者と考えると、「シェールオイル潰し」でなく「ロシア、ベネズエラ潰し」の方が現実的である。さらにサウジアラビアの減産しないOPEC決断はこのシナリオを加速することになった。陰りのみえたサウジアラビアとこの機にロシアを潰したいアメリカ。サウジアラビアとアメリカの協力関係は不明だが、OPEC総会の「しきり」とこれまでの親密な関係(上の写真)から推測できるかも知れない。

 

 

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