EM DriveはNASA-TRLのランクアップなるか

07.11.2015

Photo: Tech Stew


NASAはアポロ計画後に新しい目的が定まらず低迷していた印象が強かったが、火星や火星を拠点としてさらに遠方の惑星への長距離飛行と地球人類の移住という目標をみいだしたようだ。火星への探査や人類初の着陸のための技術開発に余念がない。


宇宙空間を長距離に飛行するにはロケットエンジンに変わる推力が必要不可欠である。このため電磁気を推力に応用したEM Driveという新しい原理による推力装置を研究してきた。しかしその試作機試験はどうみてもホームメードの頼りないプロトタイプで真空中の実験でなかったため、推力がでたがその新票性は疑わしかった。そのため専門家の間にはEM DriveときくとSF映画スタートレックの世界として眉をひそめる人も多かったことは事実である。


Photo: Tech Stew

 

 

EM Driveの生みの親は英国の宇宙航空工学の専門家Roger Shawyerで、彼は2000年にEmDriveを製造する会社、Satellite Propulsion Research Ltd.を設立した。彼の説明ではEM Driveはロケットに加速器の加速空洞を応用したものである。加速器で使われるマグネトロンからマイクロ波をコーン型の高Q値空洞に導き、コーン奥に共振器で空洞を共鳴させると出口方向に推力が発生するというものであった。推力発生メカニズムは不明なのだが、写真のような実験機をつくって実験すると大気中では推力が得られたという。

 

考えられるのは推力は放射圧(radiation pressure)の反作用として得られる可能性はある。このため推力は空洞のQ値に強く依存し、高Qほど大きい。室温の一般的な空洞のQ値にくらべて超伝導空洞のそれは(低温で)1x109に増大する。これが CERNのLHCで超伝導空洞が用いられる理由でもある。このため高い推力を得るには高Q値空洞を使う必要がある。

 

Shayerは実用的な宇宙船を長期にわたって加速し飛行を続ける能力があるとしているが、推力発生の基本原理が明らかになっていないことや実験が大気中で行なわれたことなどから信憑性は低かった。NASAは将来実用化への難易度を1から9までの数値(Technology Readiness Level, TRL)で分類する。1〜3まではいアイデア段階で実用には「死の谷」が存在するレベルだが、EM Driveはそのようなレベルであった。一方、アメリカが宇宙空間に宇宙飛行士を初めて送り込んだマーキュリー計画は急場凌ぎとはいえTRL 9であった。

 


このほどNASAはコーン形状を改良して電磁波が漏れないように工夫し、下の写真のように真空中で実験をしても推力が存在することを確認した。TRLランクが上がることは間違いない。これまでEM Driveに懐疑的であった人たちの議論は従来のロケットの推力では爆発力がロケットに物理的な力を加えることで作用・反作用の原理で推力を得るのにEM Driveではそれがない、というものであった。

 

しかしRadiation Pressureが真空中でも推進力が得られることが示されると、現実性が高まった。ただしEM Driveで必要な高出力電磁波を発生するにはエネルギーが必要になる。太陽エネルギーなど宇宙空間でエネルギーを取り込まなければ惑星間移動に必要な何年も飛行を継続することはできない。結局何をするにもエネルギーが必要なのだ。EM Driveの実用化にはあと50年かかるという。TRLランクをさらに上げるにはまだまだ開発研究が必要だ。