史上初のマントル掘削を目指して

04.12.2015

Photo: Freo’s View


インド洋の海底を数kmにわたって掘削することで、いよいよ人類は史上初めてマントルに到達することになる。プロジェクトチームは謎に包まれたマントルの解明に挑むとともに、マントル中の生物存在の可能性についても調査を行う。彼らが用いるのはJOIDES Resolutionという名前の掘削船(注1)で、地底の掘削に先立って600mの海底にドリルを到達させる。


(注1JAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」も人類未踏のマントル到達を目的のひとつにかかげている。2007年にインド洋で推進500m、海底3.7kmの掘削の実績がある。今回のプロジェクトでも最終段階で「ちきゅう」が使用される。


3km掘削するのに数年かかるこのプロジェクトはマントルへ到達に挑戦する最新のもの。1997年に1.5kmまでの掘削に成功しているものの、荒波でそれ以上の深さの掘削ができなかった。また2011年と2012年の掘削ではマントルとその上にあるクラスト層の境界近くで掘削が途切れた。


Photo: odp-tamu.edu

 

研究チームのリーダーであるカーデイフ大学のMacLeod教授は、今回の掘削ではこれまでのような(作業を中止に追い込んだ)技術的問題は起こらないはずで、今回こそ海洋地震層の深さの限界を調べることができそうだが、作業は2020年までには完了しないと述べた。

 

掘削場所は地殻の薄いインド洋の南西インド海嶺で、掘削作業は3回に分けて行う。この場所の溶岩の噴出は少ないため掘削する岩盤も薄いと考えられる。活発な地質活動により水深が浅いことも掘削を容易にしている。

 

掘削の第一段階は12月に開始され2016年の1月までの予定で、地殻1.5-2km掘削する。第二段階(時期未定)では最大4kmのクラスト層掘削を予定している。

 

最終段階は「ちきゅう」を5-6km掘削してマントル到達を目指す。International Ocean Discovery Programの一環として行われる掘削プロジェクトの正式名称は”Slow Spreading Ridge Moho”である。

 

 

Photo: spacegerms

 

地質学者は地殻とマントルの境界についての知見が得られることと、生命体の探索に期待している。マントルの温度は500-900C。これまでは地殻とマントルの境界が大洋地震発生の境界でもあると考えられてきたが、地震学者の中には海水がマントルの裂け目から侵入したさらに深部であるとする意見もある。

 

 

海水と反応して岩石が”serpentinite”に変化する過程でメタンガスと水素が発生するので、生命体(バクテリア)の存在も考えられる。実際に地下2kmの深部で生命体の存在が確認されている。したがってマントルの深部に”serpentinite”が存在すれば生命体の存在の可能性もある。地殻とマントルの境界は”serpentinite”存在限界なのかが明らかになる日も近い。