ロシア機墜落で深まる米ロ対立

03.11.2015

Photo: Mail on line

 

先のウクライナのマレーシア370便の墜落事件で米ロの対立が深まったばかりだが1031日、今度はロシアに向かうエアバス機がシナイ半島に墜落し乗員乗客224名が犠牲となった。


事故後ISからテロ犯行声明がだされたがエジプト、ロシア当局は9,000mを飛行中の航空機を標的とするミサイルをISが持たないことを理由にこれを否定した。詳細な事故調査は結論が出ていないが、爆弾説(注1)のほかにエンジントラブル(注2)などいくつかのシナリオが考えられている。


今回の墜落では空中で機体が分解したため広範囲に残骸が飛散した状況がロッカビー事件の状況と似ているとされる。特に写真にあるように機体の避けた断面が内側からの圧力を受けて外側に変形したとみられる変形を受けている。このため爆弾などで急激な内圧が生じた可能性が考えられている。


(注1)これまでのところ現場から爆発を裏付ける証拠はでていない。爆発の痕跡や爆発物質の分析により、爆弾の場合は調査で確認できる。パンアムを破産に追い込んだきっかけとして有名なスコットランドのロッカビーのパンナム103便(ボーイング747機)墜落事件では、プラステイック爆弾が日本製のポータブルラジオに仕掛けられていた。この時には貨物室が爆破されて与圧が一瞬で抜け、空中爆発をして残骸は広範囲に飛散した。犯人検挙の決定的な証拠となったのはプラステイック爆弾が仕掛けられた日本製のラジオの基板であったが、後の大韓航空爆破事件でもポータブルラジオが使われた。


(注2)最近の双発ターボファンジェット機は片側のエンジンが停止しても反対側のエンジンのみで飛行が継続できる設計になっている。高高度ではしかし揚力が不足するため高度を下げる必要がある。もしその場合にISの所有する簡便な地対空ミサイルを使用したならばISの声明に動画が添えられるので、高度を下げた時にミサイル発射した可能性は低い。ターボファンエンジンは爆発すると高速で回転するタービンブレードが機体を切り裂くことも考えられるが、エンジンメーカーはタービンブレードが機体に損傷を与えないように工夫をしている。ジェットエンジンは主翼の下にあるので燃料タンクが損傷を受ける恐れはある。


ISが撮影したとされる墜落の動画によると高度を急激に下げ途中で黒い煙に包まれる。何らかの事情で急激に降下している途中で爆発が起きて空中分解したと考えられるが、画質が異常に悪いので動画から詳細情報は得られない。

 


A321

正確にはA321ceoと呼ばれる。エアバス社のヒット作A320の派生機で、胴体を延長して乗客数を増やした同シリーズではもっとも生産された機種。一部の機体では特徴のあるウイングレット(シャークレット)で見分けることができる。座席数はシートアレンジに依存して185-220席。さらに航続距離を伸ばした派生機A321ではさいだ座席数は236席、航続距離7,400kmにまでになった。ANALCCの採用で国内線にも投入されている。墜落事故歴はパキスタンでLCCA321が着陸に失敗、乗員乗客152名が死亡したほか、ANA機がウインドシアでの函館空港で尻もち事故がある。今回のコガリムアビア9268便機も尻もち事故の前歴がある。機体はA321-231リースで56,000時間飛行、18年運行の古い機体であった。

 


紛争地域のリゾート地シャルム・エル・シェイクとは

コガリムアビア9268便機はエジプトのシャルム・エル・シェイク国際空港からセントペテルスブルグに向けて飛び立った国際チャーター便だった。当初から乗客は富裕層ロシア人が乗客であったことを伝えた。空港に近いリゾート地シャルム・エル・シェイクとはどのようなところだったのか。

 

 

Photo: savoy-sham.com

 

写真でみてわかるようにシャルム・エル・シェイクはシナイ半島にあるテイラン海峡に面した高級リゾート地で、欧州や中東から富裕層がチャーター機で訪れる人気スポットである。歴史的にはしかし中東戦争のたびにイスラエルの手に落ち1979年にシナイ半島がエジプトに変換されてから、イスラエルのかつての領地を高級リゾートに変えた。しかしシナイ半島は紛争地域でありこの地でも爆弾テロがあったことからわかるように、シャルム・エル・シェイクは紛争地域にある高級リゾートであることにかわりはない。国際空港はカイロから飛行機で1時間にあるため、エジプト政府が会議の場として使うことが多く、ムバラクも一時居住していた。

 

現時点で爆弾説の検証はできていないが、今回の事件をきっかけにして再び米ソの対立が深まる恐れがある。犠牲者にとってはシャルム・エル・シェイクは地獄に続く楽園となった。多くの乗客は前の日にこの楽園で写真をとっていた。犠牲者には気の毒だが、どんなに高級リゾートであっても紛争地域にあるリゾートは死のリスクと隣り合わせなのだ。

 

 なお墜落原因についてはエジプト政府と(エジプトに急接近した)ロシア政府はISのテロではないという趣旨の声明を発表し、ISのプロパガンダになることを必死に避けようとしている。一方でISは爆破テロである犯行声明を発表しており、機体の状況から爆弾説の可能性が強くなっているが両国とも慎重な態度を変えていない。もしISのテロが事実だったとするとロシア空爆への報復であることは確かなのでロシア世論からの反発を招く。アメリカはロシア空爆を(IS攻撃は名目であるとして)批判していたので、ロシアが再び空爆を強めれば2国間の対立が強まる。

 

事故原因の公式発表には時間がかかるかもしれない。