CBRNEと科学技術

Aug. 22, 2014


 かつてのテロ事件といえば911であり、中東の自動車爆弾であった。映画"ハートロッカー"はイラクの米軍爆弾処理班の活躍を描いた2008年アカデミー賞を6部門受賞に輝いた。米国の中東における死傷者が増えている折に世論の支持や軍人を鼓舞する意図を持ってつくられたとはいえ、リアルな爆弾処理作業の描写は見る人に恐怖感を植え付けた。

 

 いまではテロに使われる兵器は多様で爆弾とは限らない。むしろ爆弾は古典的になりつつあるといえよう。CBRNEという略語は日本ではまだぴんとこないが、731部隊やサリン事件など、この分野では(不名誉だが)日本が先鞭をつけたことは確かである。CBRNEとはchemical、biological、radiological、nuclear、explosiveの略で、化学、生物、放射性物質、核、爆弾という広義のテロ兵器概念で、911以降活発化した先進国でのテロリズム分類である。

 


CBRNE防護服
 まずテロ現場の報道で目につくのは鮮やかなオレンジ色の防護服である。現場で作業にあたる緊急対応部隊が身につけているCBRN防護服は基本的な装備だ。CとB、化学物質と生物兵器ウイルスに対しては空気中に漂う微粒子を吸い込むことを避けなければならない。このためには空気を遮断する防護服とマスクで全身を覆い、クリーンルームのように内部の圧力を1気圧以上に保つ。


 オレンジ色の全身スーツが、膨らんでみえるのはこのためである。国内では消防署、自衛隊の化学兵器部隊には配備されている。オレンジ色のスーツ(写真)などレベルA(米国EPA基準)対応の気密服からJIS T8115規格対応など、気密性の高い全身防護服は化学物質、病原菌に対応できるため、消防・警察などの緊急時対応要員、テロ対策チーム、救急医療対応などの従事者が使用する。これらの防護スーツはデユポン社から市販されている。

 


放射線防護服
 エネルギーが高い放射線(ガンマ線)は透過力が強いため、CB防護服では防ぎきれない。強い透過性を持つガンマ線を遮蔽するには鉛や厚い鉄板が必要とされる。しかし人体に装着する防護服に使用するには重量がネックとなり、重すぎると使えない。緊急用にはガンマベルトというものがあり、最小限の放射線防護に使われるがあくまで臨時的である。米国Radiation Shield Technologies (RST)社のDEMRON繊維を使用したRN防護服は、130keVまでのガンマ線の線量の高い原子力施設内で使用できる。DEMRON繊維は市販されている。


 社会を脅かす炭疽菌などの生物兵器(ウイルス)を短時間に現場で特定する遺伝子センサー(DNAチップ)やサリンなどの毒素センサーを開発されている。ウイルス兵器では、一次感染者の移動による広範な二次感染被害が脅威であり、迅速な検知による早期封じ込めが重要となる。そのため、空港や鉄道 等、輸送施設などの公共施設での定点モニタリングの他に、全国ネットで広域をカバーするネットワークは効果がある。



手荷物イメージング

 現在空港の手荷物検査の主力は軟X線吸収イメージングと認識ソフトウエアの組み合わせである。検査画面をみると個々の物体が認識され色分け表示されている。たいていは2Dマップで表示されるが垂直な断面をスキャンさせて立体表示できるものもある。


 測定器メーカーの人から面白い話をきいた。高性能爆薬として知られるCP4はスイスチーズと密度が同じなので、チーズを旅行で持ち歩くことの多い欧州では、検査でたびたび引っかかるらしい。元素イメージングやX線回折で見分けることができる、ということだった。

 


THzイメージング
  911以降、金属センサーによるセキュリテイチェックは、講演会やコンサートなど人が集まるところでしばしばみかける。また中国では新幹線駅構内に入構する際に手荷物検査と金属センサーを通らなければならない。金属センサーではセラミックナイフは検出できない。


 またX線検査は被曝のため好ましくない。最近ではテラヘルツ波は、紙やプラスティックや布といった金属以外をよく透過し、対象の物質を正確に把握することが可能なため、X線に代わる非破壊検査に期待されています。米国ではテラヘルツイメージング装置はすでに市販され、空港で使用されると、透視画像が人権侵害とする物議をかもしている。


 

テロを根絶するには
 CBRNEテロの中でこれから脅威となるのはBNEである。エボラ出血熱が生物兵器だとする説も有るが、もしそうでないとしても現在、西アフリカで発生しているエボラ感染は勢いを増しており、パンデミックの危険が高い。


 また紛失している放射能物質量は核爆弾をつくるレベルを超えている。国境を渡りCBRNE兵器が持ち込まれるリスクが高くなった。水際で食い止めるための科学技術開発に各国は力を入れているが、やはりテロ根絶には原因を取り除く事が必要だ。


 テロは擁護できないが、第二次大戦終了以後に米国が国外に派兵し殺戮した民間人、軍人の総数は900万人とされる。テロを防ぐ前に大国がテロの原因となる他国への干渉をやめるべきではないだろうか。