国産技術の独自性の意味

Apr. 11, 2015

 

 航空機や大型ロケットの分野においてコストを追求すれば外国製品の購入ということになるが、最近ようやくという印象が強いが強気の発想、つまりオール国産化に向けての動きが見えて来た。


 例えば衛星打ち上げ用ロケットの世界は最近の宇宙ビジネスの発展に伴い、コストを成功率で競争の激しい分野である。ここに参入したHIIロケットはどのようなスペックなのだろうか。


 HIIロケットはJAXAの前身NASADAと三菱重工業が共同で開発した全長50m、直径4mの2段式ロケットである。原型のHIロケットまでは米国のデルタロケットのライセンス生産であったが、HIIは純国産であると同時に燃料を1段目2段目とも液体水素、酸化剤に液体酸素を使う(注)等、独自技術を駆使した斬新な設計であった。


(注)燃料電池と同じで燃焼後に水蒸気しか発生しないためオゾン層を含む地球環境にやさしい打ち上げが可能となる。2段目にこのシステムをも用いるのは類を見ない。


HIIA

 しかし競争相手である欧州のアリアンの約倍となる打ち上げコストを国際的に充分な競争力を持たせるために改良型のHIIAが開発された。HIIは基本的にHIIの簡素化した低コストロケットで静止軌道に投入できる最大衛星重量は6,000kg(固体ブースター4本使用時)で1994年2月から5階連続で打ち上げに成功した。続く2件が失敗に終わったがコストがHIの190億円から100億円になった。2001年夏の初打ち上げ以来2015年3月の28回目まで28回中27回成功で、成功率96.88%を誇る。(トップ写真)



HIIB

 HIIBはHIIAの打ち上げ能力の向上が狙いで、全長が56.6m、直径が5mに拡大され1段目にHIの1段目エンジンLE-7Aを2基使用し、周囲に固体ブースター4本を取り付けて、静止軌道投入能力を8,000kgを持たせた。またISSに無人で貨物を運ぶためのHTVでは16,500kgまでの重量に対応できる。(上の写真はLE-7)

 

 これまでに2009年9月にHTV打ち上げに成功して以来、4号機まで全ての打ち上げに成功している。また2015年度にはHTVの3ミッションが予定されている。世界的には米国スペースX 社のファルコン9や欧州のアリアンロケットなどの次世代機開発競争が激しくなる中で、いよいよHIIIロケット開発にゴサインがでた。

 

HIII

HIIIの目的はEELV(Evolved Expendable Launch Vehicle)と呼ばれる、用途によって異なるスペックの違いに対応して製作することをやめ、基本的なモジュールの組み合わせで、低価格ロケットを実現する世界的な流れに対応することである。このため1段目のエンジンはクラスタ化され2または3基から、固体ブースターは0、2、4から組み合わせて、多様なミッションに対応可能となる。予想コストは50億円となりHIの約1/4ほどにコストカットされる。打ち上げ能力は7,000kgとHIIAとHIIBの中間に位置する。

 

 これに対して欧州のアリアン5の次世代機アリアン6も固体ブースターが2もしくは4が選択でき、静止軌道への投入重量10.5tはファルコン9の発展型ファルコンヘビーと同等になり、2社の競争は激化するとみられる。ただしイーロンマスク率いるスペースX社のファルコン9やファルコンヘビーで挑戦している1段目回収による再利用が可能になれば、コスト競争は終焉を迎える。

 

 衛星あたりのコストと安全性(成功率)が問われるロケット開発において現実的には国際的な相場を上回ることは許されないが、独自技術を織り込んで自国で開発を継続する、ということには技術の維持向上に重要であり、当初の経済性をある程度無視しても、独自路線を歩いて来た日本の選択は正しかったと考えられる。