プライベートバンクに変化の兆し

Mar. 22, 2015

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プライベートバンクは顧客の秘密を守ることから、富裕層は資金を国外に持ち出したり税金逃れ、はてはマネーロンダリングに悪用するので、近年では批判が高まっている。


 その多くはスイスに集中していてスイス銀行法(注)でプライベートバンクは手厚く保護されている。代表的なもの(13行)はほとんどが創立者の名前がついている。プライベートバンカーだ。


(注)銀行員が顧客の情報を外部に漏らしたときは、スイス銀行法47条により、罰金刑や禁固刑などの刑事罰に処せられる。


 しかし最近ではマフイアや富裕層に加えて中国や北朝鮮の腐敗した官僚が自国から不正資金を海外に移すための道具となり、批判を受けると規制が入るようになった。2010年代には米国政府はプライベートバンクに顧客情報の提出を義務づけ、2013年にスイス政府も米国とアメリカ人の預金、債券、株式など隠し財産の情報を提示することに合意した。


 写真のWegelin & Co.は2002年から2010年にかけて米国の富裕層(100名以上)の所有する$1.2Bの資産の脱税に協力したことで上記の連邦政府介入のきっかけをつくり、1741年から続いた営業の幕を閉じた。2013年1月に有罪の判決を受け(スイス国内法規に抵触しないが)$57.8Mを連邦政府に支払うこととなった。Wegelin & Co.はスイス最古の銀行でありプライベートバンクに暗雲が立ちこめる象徴的な閉行となった。


 2世紀半に渡るスイス最古の銀行は幕を閉じることになったが、企業にとって脱税や会計法容疑の有罪判決が致命的になることは、2005年の最高裁でのEnron事件に関係してAuther Andersonが事業をたたむにいたった経緯を思い出せる。

 

 この事件の前にもスイス最大の銀行であるUBS AGが司法取引で脱税容疑の4,450人のアメリカ人顧客情報を渡し、$780Mの追徴金を支払った。他の銀行にも情報開示の圧力が高まっていた。リーマンショックは2世紀半より長いプライベートバンクに伝統からの脱却を迫った。

 

 司法当局によればさらに$16Mの米国内(Stamford)のUBS口座から差し押さえたということだ。しかしWegelin & Co.は閉行前に資産を他行に移動したので、この事件だけではトカゲの尻尾切りに等しいが、今回EUに対するスイス政府の合意は全てのプライベートバンクに秘密口座の開示を義務づけるもので、大きく前進したといえる。

 


 

 スイスにとっても顧客情報の秘密主義は国際的な孤立となり国益に反するという判断であった。こうした動きによってEUとスイス政府はこのたび顧客情報の共有に関して取り決めが結ばれた。EUの狙いは表向きは脱税操作のためだが、その裏にはギリシャのように脱税が国の財政を崩壊につながる恐れがあるからである(注)。

 

 また「イスラム国」が欧州各国にプライベートバンクを介して武器密輸に関わった疑いがあることからEUのセキュリテイ上、秘密主義を崩す必要に迫られたからだ。

 

(注)ギリシャの脱性総額は6兆円にも上りこれが財政赤字を引き起こした。脱税は国民全体に及ぶが、とりわけ富裕層の所得税逃れの取り締まりが急がれる。EUは財政支援の前提として脱税に注目し、脱税や年金の滞納をなくす改革リストをギリシャに要求した。富裕層の脱税を調べるのにプライベートバンクの秘密主義が障害となっていることをEUも認識し、スイス政府に圧力をかけたと考えられる。

 

 プライベートバンクは富裕層や投資家の100万ドル(1億円)以上の資産を預かるがリスクの無い運用で、資産の保全を保証する。特徴のひとつであった番号口座(秘密口座)はマネーロンダリング規制により、発行ができないところが増えているが、スイスのプライベートバンクは別で治外法権が認められていた。