安全シェルターで覆われたチェルノブイリ石棺

01.12.2016

Photo: ebrd

 

1986年の悲惨な事故の後、チェルノブイリ原発4号機の石棺は風化して安全性の問題が深刻化したため、それを覆う安全シェルター(New Safe Confinement)が建設されていたが、このほど石棺に移動し移動完了式典が行われた。

 

周囲への放射性物質の拡散による環境汚染を防ぐことが安全シェルターの目的であるが、シェルター内部で石棺を崩し廃炉作業を行うためでもある。安全シェルターはチェルノブイリシェルター基金が今後100年にわたって石棺から漏れ出す放射性物質を閉じ込めるために建設したものである。

 

安全シェルター(注1)はフランスのコンソーシアムとロシアの2プロジェクトが共同運営で建設していたが、建設費が高騰し当初予算と100万ユーロの不足が発生し完成が危ぶまれていた。

総建設費は21.5億ユーロ(約2,580億円)である。

 

(注1)”Confinement”の意味は原子炉の格納容器の”Containment”とは異なる。(黒煙型原子炉には軽水炉の格納容器の概念はないが)「漏れ出した放射性物質」の閉じ込めである。つまりContainmentはできていないから用語として使えなかったのである。

 

設計にはウクライナ政府の要請で英国の設計チームが国際コンペに参加して行われた。コンペ結果はアーチ型の屋根を持つ蒲鉾状の建物となる英国案デザインが1位、フランス、ドイツ案が続いた。フランスのコンソーシアムとロシアの共同プロジェクトとして高さ92.5m、幅245m、奥行き270mの移動式シェルターの建設が2007年に始まった。

 

 

Source: Chernobyl Shelter Fund

 

完成予定は2017年となるシェルターは本体が完成し2016年11月14日に石棺に向けて移動を開始し、29日に終了した。今後は密閉するための壁工事を行い2017年に完成する見込みである。シェルターは世界最大規模の建築物となるが、今後シェルター内部での石棺の取り壊しと高レベル放射性物質の撤去が最大の難関となる。

 

 

福島第一の廃炉作業は溶融核燃料の所在がつかめていないことが問題だが、1-4号機で異なる状況であることも作業を複雑化している。廃炉作業中の環境汚染を最小限にするには、安全シェルターで囲むことがのぞましい。設計を変更するだけで建設できるのでコストダウンも可能になる。今後のシェルター設置の検討は必要と思われる。

 

日本は福島第一の事故後に差し伸べられた国際協力を退け、国外の廃炉技術を取り入れようとしなかった。廃炉作業における国際コンペの有効性を実証することとなったチェルノブイリ安全シェルターに日本が学ぶべきことは多い。