モンテ・パスキの国有化を巡るイタリアの混迷

08.12.2016

Photo: CNBC

 

 イタリアのレンツィ首相は7日に、2017年度予算の成立をもって辞任した。不透明な政治状況で、イタリア政府はモンテ・パスキの国有化の検討を始めた。

 

 

イタリアの銀行の2017年見通しの格付け引き下げ

 英格付け会社のフィッチ・レーティングは、10月にイタリア国債の格付け見通しをBBBプラスからネガティブに引き下げた。4日の憲法改正を巡る「NO」の国民投票結果でレンツィ首相は辞任を表明した。政治不安、経済の低迷、銀行収益性の低迷で銀行の不良債権処理のための資本増強が難しくなることから、フィッチはイタリアの銀行の2017年見通しをネガティブとした。

 

 

モンテ・パスキへの公的救済

 12月末までに50億ユーロの資本増強の計画を進めていたイタリア第3位のモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)は不透明な政治状況で、民間からの資金調達の見通しが難航している。

 

 銀行の取り付け騒動、モンテ・パスキの破綻を避けるため、イタリア政府はモンテ・パスキへの公的救済を実施する用意があることを明らかにした。現在、イタリア政府はモンテ・パスキの株式4%を保有、最大の大株主である。イタリア政府は、モンテ・パスキの約4万人の個人投資家である劣後債保有者から債権を額面価格で買い取り、債務株式転換で株式保有を40%まで引き上げる計画である。

 

 この方法により、株主と個人投資家の負担回避ができるとされるが、イタリア政府による公的支援は実質的にはモンテ・パスキの国有化である。投資環境の改善をはかり、投資を呼び込むことで今後必要な資金を調達することも狙いである。

 

 

 イタリア政府が最も恐れるのは、モンテ・パスキの取り付け騒動が、他の銀行へと連鎖、イタリア金融危機を引き起こすことである。イタリアの銀行は、他の欧州銀行とは異なり、銀行の株主と劣後債保有者の大半が個人投資家(特に年金生活者が多い)からである。そのため、取り付け騒動が発生するリスクが高い。イタリア政府はそのため公的支援策で、劣後債保有者の損失が生じるベイルイン制度の導入を極力に避けたいところである。

 

 

ECBとEUの判断

 欧州委員会(EC)は公的資金による銀行救済には反対、EU規定に沿ってベイルイン制度の導入を求めている。ベイルイン制度下で、モンテ・パスキの救済を実施すれば、銀行の取り付け騒動は避けられない状況をつくりだす。モンテ・パスキの国有化がベイルイン制度下で進められるかが注目される。

 

 モンテ・パスキに残された策は、欧州中央銀行(ECB)が設定した資本増強の終了期限(12月末)の延期で、投資家を説得して資金調達を可能とすることである。ECBが少なくとも新政権が発足して政治状況が安定するまで、モンテ・パスキに猶予を与えるかが今後の焦点となる。