英国のヒンクリー・ポイント原子炉に黄信号

16.08.2016

 

Photo: Reuters

 

ヒンクリー・ポイント原発とは

ヒンクリー・ポイントは英国サマセットの河口にある原発でそのB地区に655MWの改良型ガス冷却炉2基を有している。ヒンクリー・ポイントB地区にある改良型ガス冷却炉の稼働は1967年で2023年に停止となるため英国政府は2010年に新たにヒンクリー・ポイントC地区に新規原子炉を建設する計画を立てた。

 

原子炉の運営主体であったブリテイッシュ・エナジーはフランスの国営電力会社EDFが買収した。EDFは傘下にアレヴァを有し新規原子炉として最新型の加圧水型原子炉、欧州型原子炉(EPR)2基の建設を行うことになっていた。EPRは設計は優れているが、先行したフランス、フラマンヴィル原発ほか、同型機の建設が建設コスト高騰で建設が遅れている。

 

 

華やかなトップセールス

習近平国家主席が英国を訪問した際のトップセールスとして、高騰したEPRの建設資金の一部を中国国営企業が出資して、民営化したフランス電力(EDF)が、アレヴァ社とともにEPRを建設することになった。EPR2基の建設費は日本円で約4兆5千億円。完成後は出資額に応じてEDFと中国が2:1の比率で所有することになるが、所有権の一部が中国になることに安全保障上の危機感からメイ政権はこの契約内容自体を見直す方針を示している。EDFの役員会でもヒンクリー・ポイント事業の継続が協議され、僅差で続行となったがEDFの財務状況は改善されないままで、赤字となればEDFに致命的な痛手となる。

 

 

何故、先進国のEPR建設が遅れているのか

EPRは安全性が高い1600MW加圧水型原子炉で設計の先進性で最新型原子炉である第3世代のさらにさきにあるとして第3.5世代と呼ばれるほどである。加圧水型原子炉は炉心冷却系が直接タービンを回さないため原子炉と発電機を分離でき、周囲の汚染の確率が低いとされる。

 

EPRではさらに炉心冷却の安全性が高められていて原子炉停止後の冷却の非常用冷却システムが4重になっている。また9/11以降、航空機テロに備えるため建物が航空機衝突の衝撃に耐えられる。さらに炉心がメルトダウンしても取り出せる構造になっていることなどで、安全設計が何重にも施された。建設主体はアレヴァ社とシーメンスの共同体アレヴァNPである。

 

同時に設計の複雑化によって建設コストも高騰し、建設が軒並み大幅に遅れている。フインランドのオルキオトの1号機建設は2005年に開始、フランス、フラマンヴイルの2号機は2007年建設開始であるが、これらは未完成で10年以上が経過した。ヒンクリー・ポイントには2基が建設される計画であったが、建設費4兆5千億円の供出が困難となり、事実上建設は暗礁に乗り上げていた。

 

中国の国営企業のが1/3を融資することで、建設開始にこぎつけた。しかしこの国営企業の職員のスパイ容疑が発覚するなど、英国の安全保障上に懸念があるとしてメイ政権は見直しも辞さないとしている。実際のところはヒンクリーポイントの原子炉建設には東芝・ウエスチングハウスや日立・GEなど有力原子炉メーカー連合が売り込みをかけており、メイ政権が入札によって有利な条件での建設を狙っている可能性も高い。

 

 

建設費の高騰の背景

何故EPR建設が遅れるのかを簡単に説明すると設計が複雑化したことである。材料工学的にも高性能材料が求められ、制御・安全系のソフトウエアの複雑化てに原因がある。オルキオトの1号機の完成度は土木工事73%、工学系80%とされるが、さらに4億ユーロのつか費用が計上されたことから、設計の変更と改修工事規模が大きいと推察できる。最近発覚した原子炉格納容器の材質の問題など根幹的な部分の手直しで多額の製造コスト追加が必要となった。

 

 

中国に建設中のEPRは何故、進展が順調なのか

EPR1号機と2号機の大幅な建設遅れを尻目に、中国でEDFに融資する予定の中国国営企業と共同で広東省で2009年から3号機、2010年から4号機となる2基の1750MWのEPR建設が始まった。進捗状況は順調であるが中国で建設されているEPRは理由は設計が単純化された「量産型」であり、開発費が含まれていないのでコストが安く、工事も設計変更がないため短期間(5年間を見込む)ですむからである。中国のEPR3号機は計画通り2013年9月に完成し稼働しているので「量産型」EPRなら5年で完成ということになる。

 

 

したがってヒンクリー・ポイントに建設するEPRがこの「普及型」なら建設は順調にいくはずだった。中国国営企業とアレヴァの建設主体は2基の実績があることで1号機、2号機の完成を待たずに建設が進められたであろう。しかしメイ政権が警戒したのは原子炉の管理が中国の手に渡るという安全保障上の問題と政権に有利な事業主体の見直しの二重の意味があったものと思われる。

 

しかし3号機が安価に短期間で完成したのは、1号機、2号機で発生した技術的問題を避けられたからである。「量産型」EPRの出力は1基で1750MWとなる世界最大の原子炉である。中国の好きな世界一がフインランドとフランス国民の税金で実現したことを知る人は少ない。