ニュートリノT2K実験でCP対称性の破れ解明へ

08.08.2016

Photo: Kamioka Observatory, ICRR (Institute for Cosmic Ray Research), The University of Tokyo

 

宇宙の反物質はなぜ消滅したか

宇宙の始まり(ビッグバン)において物質と同じ数だけ生成されたはずの反物質は、現在の宇宙にはほとんど存在せず物質のみが存在している謎は未解明である。反物質が消滅した理由がなくてはならないからである。明らかに反物質には物質と異なる性質(CP対称性の破れ)があるはずで、その解明こそが反物質消滅の謎に答えをだせるとされていた。

 

クオークにおけるCP対称性の破れは小林誠、益川敏英教授により理論的な説明がなされているが、他の素粒子にCP対称性の破れがあるかどうかはわかっていないが、ニュートリノについてはCP対称性の破れが存在する可能性がある。

 

 

T2K実験が狙うCP対称性の破れ

T2K実験(注1)はJPARCで発生させたニュートリノを295km離れた岐阜県にあるスーパーカミオカンデで検出する実験であるが、これまでにミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノへ変化する過程を調べる実験を行ってきた。しかしこのとき反ミュー型ニュートリノをつくり、反電子型ニュートリノへの変化から、両者に差があれば性質の違いすなわちCP対称性破れを証明できることになる。

 

(注1T2KTJPACのある東海、Kはスーパーカミオカンデのある神岡町を意味する。

 

 

Source: t2k-experiment

 

T2K実験は2014年から反ニュートリノ生成実験を開始、20165月までにニュートリノ実験と同量の実験データを蓄積し、両方の結果を比較した結果、スーパーカミオカンデで計測した電子型ニュートリノがCP対称性の破れがない場合の33%大きい値となった。詳細なデータ解析と他実験の比較により、「ニュートリノと反ニュートリノで電子型ニュートリノ出現が同じ確率で起こる」ことは90%の確率で否定できることが示された。

 

このことはニュートリノと反ニュートリノで電子型ニュートリノ生成の確率が異なるすなわちCP対称性の破れが存在する、という結果になりクオーク以外の素粒子でもCP対称性の破れがあることで、物資、反物質の性質の差(CP対称性の破れ)が両者の存在比に決定的な影響を与えたと推察できる。

 

 

 

宇宙の始まりの際に同量が存在した物質と反物質はCP対称性の破れを持つか持たないかで運命がわかれたと考えられる。T2K実験によって、未解明の宇宙の謎のひとつが解明されたことになる。