VTOL機サービスに乗り出すユーバーの先進性

01.11.2016

Photo: freemalasiatoday

 

世界中のタクシー業界に影響を与えているユーバータクシーが交通渋滞から逃れる高速移動手段としてエアバス社のヘリコプターを使ったサービスを始める。しかしその先にはVTOL機戦略で新たな分野への参入を目指すエアバス社との協業がある。少なくとも3社以上のベンチャー起業が個人用の空飛ぶ車の販売を予定している中で、エアバス社の狙いはウーバータクシーをVTOL機で置き換える本格的な可変翼VTOLである。

 

 

多くの空飛ぶ車は主翼とプロペラを有しているが、Moller International社のSkycarはエアバス社が採用する可変翼VTOLである。VTOL機の歴史は古く可変式の主翼を持つヘリコプターからの派生には有名なオスプレイがあるが、離発着の利便性を考えるとドローンのように小型ローターを複数備えた方が実用的である。

 

 

Credit: AIBUS

 

エアバス社のVTOL機(上)はSkycarによく似ている。すでに一人乗りの機体を開発するプロジェクトは開始されている。ヘリコプター部門を持つエアバス社にとってはスケールアップした機体を開発することは容易だろう。

 

 

最近のドローンが安定に飛行できるのはジャイロを使った制御によるところが大きい。過去の可変主翼VTOLの致命的な欠陥である上昇下降と水平飛行の間推進力方向の回転中の不安定さは、ドローNやセグウエイにおける安定性と同様、デジタル制御技術によって大幅に改良される。

 

機体の前後に複数ローターを持つところはドローンの上昇・下降モードと同じで、回転していくと水平飛行時にはプロペラ機のようだが、揚力を得るのは主翼でなくローターである点で、オスプレイとは一線を画する。むしろ複数のローターを持つヘリコプターの部類に属する。 

 

Source: Wiki

 

上の模式図はソ連のヤコブレフYa-38。主ジェットエンジンの排気ノズルを可変にするアイデアは英国のハリアー戦闘機に引き継がれ、垂直方向の副エンジンを搭載するアイデアは最新のステルス戦闘機F-35の艦載機型に受け継がれている。どちらの場合にも推進力の方向をバランスを崩さないで変えるのは人間の操縦だけでは困難だが、ジャイロセンサーとデジタル制御の発展で、現在は格段に安定性が保てるようになった。VTOL実験機の試作は数多いがいずれも試験中の事故が多発して開発中止に追い込まれた。Ya-38も安定性に留意した結果主翼端と尾部に排気を分岐して送り込んで微調整を行う工夫がなされている。

 

エアバス社は同社の先進的なヘリコプター技術を中心に置いて、電子制御によるVTOL技術を開発する。小型の機体は2017年度に飛行が予定されているがSkycarを含む競争相手も同時期に初飛行を予定している。タクシー業界にサービス面で新風を吹き込んだユーバー社とエアバス社の協業で、緊急時に都会の渋滞を抜け出すサービスができれば歓迎されるだろう。

 

 

VTOL技術が円熟期に達するのを見計らって新サービスに打って出るウーバー社の戦略はさすがである。代行運転を含めたオンデマンドタクシーも多いが、スマホ予約で配車がスピーデイ、代金はクレジット決済でその場で払う必要がないとあれば、間に合わないはずの列車、飛行機に間に合ったり、病院に駆けつけたり、時間に追われる現代人には欠かせない存在となるかもしれない。それよりも渋滞を放置している大都市が背景にある。