CO2から燃料をつくるナノ触媒の開発に成功

22.10.2016

Credit: ORNL

 

オークリッジ国立研究所の中国人を中心とする研究チームが貴金属の代わりに銅ナノ粒子をグラフェン上の電極として、電気化学的にCO2から酸素を除いて燃料(エタノール)に変換する技術を開発した。原理的には年間38億トンにのぼる温室効果ガスから燃料が合成できるという夢のエネルギーが手に入ることになる。

 

 

大気中の二酸化炭素は温暖化の原因とされ、その排出量規制を巡り世界中の国と企業が血眼になって低減策を模索している。排出量規制に歯止めがかからないため、大気中のCO2を取り込み植物に習って光合成を人工的に行うことにより、空気中の炭素から燃料(アルコール)を合成する研究開発が活発化している。理由は温暖化だけではない。化石燃料が欠乏しこれまで期待の大きかった原子力エネルギーとバイオマス・エネルギーが失速して、2050年に倍増するエネルギー需要を満たすことが難しくなってきたからである。

 

米国はこのことに素早く対応してオバマ政権は急遽、人工光合成(カーボン・キャプチャ)研究開発のため75億ドルをエネルギー省に投入することとなった。日本でも光触媒による水分解や人工光合成(下図)の研究開発は国の援助で活発に行われているが、実用化に必要なエネルギー効率15%より低い。

 

Image: ACT-C

 

人工光合成のエネルギー変換効率は最近まで効率が低く、実用化は程遠いとみられていた。しかし最近イリノイ大学の研究チームはWSe2とCoのナノ構造電極を用いてCO2の取り込み(CO製造)のエネルギー変換効率24%を達成した(Science  29 Jul 2016: Vol. 353, Issue 6298, pp. 467-470)

 

光合成の効率が上がってきたのはナノ科学の恩恵が大きい。微細加工で表面積を増大させた基板上に触媒金属ナノ粒子を固定することで、表面積を上げ電気化学反応効率を上げられるようになったからである。それでも触媒の材料に使われる白金などの貴金属触媒はコストが高く、実用には採算性の壁が大きく立ちはだかっていた。

 

 

オークリッジ国立研究所の研究チームによれば、微細な突起を持つグラフェン膜に固定された銅ナノ粒子を触媒として、電圧をかけると63%の効率で空気中のCO2からエタノールが生成される。植物の光合成はマンガン金属を中心に持つPSIIと呼ぶ酵素蛋白が太陽光をエネルギー源として水を酸素と水素に分解する過程とCO2から脱酸素して糖鎖をつくる過程がひとつのサイクルとなる。ただしエネルギー効率は低い。今回の研究では電気化学すなわち電気エネルギーを使う。

 

銅金属はコストが安いので工業的スケールアップにも十分採算性がとれる期待が集まる。燃料電池車は水素を燃料として電気エネルギーに変換する化学反応である。エタノールなら従来の内燃機関の車をそのまま走らせることもできるし、太陽光発電と組み合わせれば自然エネルギーのみで燃料が合成できる。

 

オークリッジ国立研究所はかつて原爆を製造した研究施設であった。現在は上の写真のようにUT(テネシー大学)と民間研究所(バッテル)の管理下にある。職員にきくと保険や年金などが大学職員同等の扱いになるため、つまり雇用の保証がなされるので独立組織であった時代より良くなった、ということである。