クルド人勢力の処遇を巡りIS首都奪還に不協和音

26.10.2016

Photo: Independent

 

クルド人武装勢力YPGを狙ったトルコ空軍のF16戦闘機によるシリア国境を越えたアレッポ北部への26回の空爆で、YPG戦闘員160-200名が殺された。トルコ軍当局の発表では9箇所のYPG下の建物も空爆で破壊された

 

 

これに対しシリア国連大使はアレッポを占拠している武装勢力が一般市民を盾としているとし、撤退後にも狙撃手や地雷で市民が脱出するのを妨げていると国連総会で警告した。またシリア政府が事態打開のための交渉に応じる用意があるとも伝えた。ラブロフ・ロシア外相もこのことが停戦協定に違反し一般市民を巻き添えにしていることに強い懸念を表明した。

 

ロシア外相は停戦では一般市民の自由と安全が守られると同時に市民も軍人も撤退できることの必要性を強調し、シリア軍は木曜から3日間の停戦に応じている。。休戦に先立ちシリア軍とロシア軍はアレッポへの空爆を停止したが、トルコ空軍機による越境空爆でシリア政府は再び越境すれば撃墜するとして警告を発している。(注1

 

(注1NATO加盟国のトルコ空軍機の主力はF16戦闘機が主力、一方のシリア空軍はロシア製の戦闘機と防空軍のロシア製の地対空ミサイルを配備している。撃墜命令が出されれば、米国製とロシア製の兵器の戦いとなる。

 

 

トルコがシリア越境攻撃にでたのはロシア機撃墜で悪化したロシアとの関係が89日のトップ会談で関係改善がなされロシアの後ろ盾ができたことによるとみられる。米国とロシアがトルコの攻撃を静観しているのはトルコの主張するIS攻撃について利害関係を共有しているためだが、シリアにおいてISとの戦闘でクルド人勢力の成果が有志連合に認められつつある。しかしトルコはクルド人勢力を国内の反政府勢力とみなしている。IS戦闘の戦果を上げたクルド人勢力がシリア内で勢いづくことをトルコは認めるわけにはいかなかった。

 

クルド人勢力の戦闘力の高さはこれまでの対IS戦闘で証明されており、アサド政権に従うクルド人勢力はロシアにとっても保護すべき存在である。モスル攻略が山場に差し掛かっているなかで、有志連合は次の目標をラッカ(注2)に定めた。すでにクルド人勢力を含むシリア民主軍(SDF)が5月から、シリア政府軍が6日に攻撃を開始しており周囲は戦闘地域となっている。

 

(注2)アレッポの東160kmにありユーフラテス川中流の北岸に位置する。かつては人口20万人の年であったが、2014年以降はISが一方的に首都を宣言している。

 

 

地上戦の鍵を握るのはクルド人勢力だが、その扱いで反クルドのトルコと他の有志連合国とが歩調を乱す恐れがある。米国とロシアがトルコに与える影響力を考慮すると、奪還作戦の成否は米国とロシアのクルド人部隊の容認に委ねられている。国内の反クルドの方針をトルコが変更する可能性は低い。トルコ政府はラッカ奪還作戦に意欲的で、米国と協議の後、有志連合は正式にモスル以降の目標とすることが決めた。

 

先進国の利権で決められた中東分割案(サイクス・ピコ協定)で居住地を分断された「国家を持たない」クルド人勢力が中東の不安定要因となってきた。この問題を指摘し統一アラブ国家を掲げたISの壊滅に一役買うことになったのは皮肉である。