新型ロケットエンジンの超音速旅客機

16.07.2016

Photo: bisbos

 

Reacion engine社は2013年に同社が開発する新型エンジン(セイバー・エンジン)の開発に60万ポンンド(日本円で約90億円)の予算を投入するとしていたが、このほど同社の提案する超音速宇宙船Skylon(注1)の他にも、LAPCAT A2と呼ばれる旅客機にも供給される。EUが開発費を負担することで開発には弾みがつき、いよいよ20年後にマッハ4-8で飛ぶ超音速旅客機が実現する。これによって例えばブリュッセルとシドニー間が2-4時間で結ばれる。

 

(注1)滑走路から離陸して宇宙空間に達し地上に帰還する再利用宇宙船。

 

実現には航続距離20,000kmが要求されるため。燃料には液体水素が用いられる。正式には”Reaction Engine”に分類されるセイバー・エンジンはロケットエンジンとしてマッハ5の飛行を可能にする一方、亜音速飛行では吸い込んだ空気をバイパスさせて、ジェットエンジンとして低騒音・低燃費飛行することができる。離着陸時と成層圏に達してからはふたつの異なるモードでエンジンを駆動するため、セイバー・エンジンは空気の密度に対応して最良の飛行性能が得られるいわばハイブリッドエンジンである。

 

 

Source: Reaction engines

 

ESA(欧州宇宙局)は1,100万ドル(日本円にして約13.2億円)で英国の宇宙開発局と英国との新型エンジン開発事業を支援することで合意した。これによって2020年までに地上試験が可能な新型エンジンが完成する。Reaction Engine社はこれにより英国政府から、EUからの資金も含めて6,600万ドル(日本円で約79.2億円)の開発費を得る。

 

セイバー・エンジンは燃料(液体水素)を燃焼させ推進力とするがその際に酸化剤を積まず、高温の空気を液体水素で冷却しタービンコンプレッサを駆動して圧縮、液状化して水素を燃焼させる。取り込んだ空気を冷却し圧縮して液化するコンプレッサ(液化機)を持つことで構造は複雑になるが、燃焼効率に優れた特徴がある。

 

Skylon(下図)は宇宙船であるため中央に限られた操縦室とキャビンが存在するのみで残りのスペースはほとんどが液体水素タンクで占められる。LAPCAT A2はキャビンスペースを多く取り、4発のセイバー・エンジンは主翼に取り付けられるが、キャビンの窓は無い。窓が無いことで空気抵抗を減らし機体強度を高められるがキャビン内部に画像モニターで外の景色を投影すれば普通の旅客機と変わらない。

 

 

Source: Reaction Engines

 

Skylonは今世紀中に完成予定でこれによってスペースX社の再利用ロケットによる衛星打ち上げコストを下回る完全な再利用宇宙船の時代が幕をあける。LAPCAT A2は実用化までに20年を要するが2035年には、マッハ4の空の旅が実現する。

 

 

英国がEUを脱離してもEUにとって英国の航空機産業、特にエンジン開発能力は手放せない存在だ。そのため独立後も資金援助で技術の共有を模索するであろう。欧州が国家として分裂しても企業協力関係は今後も残りそうである。