原子力ルネッサンスの現実

10.07.2016

Photo: mining.com

 

米国ギャラップでも、調査開始以来初めて原発反対(54%)が過半数を上回った。しかしこれも拮抗した結果で国民の意見が二分されたといえるだろう。しかし米国の98基の原子炉の60%は老朽化していて、寿命を延長しても新規原発が建設できないため20252030年以降、深刻なエネルギー危機を迎える。

 

新興国(特に中国)を中心に原子炉需要は増加しているが、英国を除けば先進国では大型原子炉の新規建設は難航している。世界的に見れば先進国では再生可能エネルギーへのシフトが目立ち、原発需要はエネルギー不足の国・地域に限られる。しかし温室効果ガス排出の少ない(注1)原子力で火力を置き換えるべきとする地球温暖化対策として、再び原子力復興を推進する動きがある。

 

(注1)原子炉が温室効果ガス排出が少ないというのは運転中に限った場合で、フロントエンド(掘削・精製)とバックエンド(再処理・最終処理)を含めれば相殺されるので、この表現は正しくない。

 

核燃料ウランの埋蔵量は現在の需要(年間7万トン)を継続すれば70-80年で枯渇する。また現在の供給量は年間4万トンで価格上昇で燃料購入コストがかさむ。廃炉とバックエンドのコストを含めると、採算性は低くなり、再生可能エネルギー導入コストを上回る。

 

燃料ウランの価格は供給不足で今後2年で倍増するが、生産量の20%を担うカナダのAthabasca Basinの良質ウランを中心に生産量の増加で対応できるとされる。チェルノブイリも福島第一も旧型原子炉の事故であり、第3世代以降の原子炉では全停電やテロ攻撃に耐えるように設計され安全性が担保されている。米国では次世代原子炉開発に8,200万ドル(日本円にして約82億円)の開発費を計上した。

 

注目されるのはビルゲイツ、DEショー、中国人のリー・カシンなどの超富裕層が原子炉開発に資金援助を行っていることである。ビルゲイツのテスラパワーは燃料が燃え尽きたら自然に停止する安全な小型原子炉を東芝と開発している。小型原子炉は工場から運ばれて設置するので大規模工事が不要で、封じきり型なので、汚染事故の危険のない安全性が売り物である。

 

これまでの有力ウラン採掘場がピークを過ぎたため、将来の燃料ウランの供給には豊富な埋蔵量で「ウランのペルシャ湾」とも呼ばれるAthabasca Basinのような新しい場所での資源開発が鍵を握る。超富裕層は「原子力ルネッサンス」を掲げて原子力を投資先に選んだ。エネルギー危機の救世主となるのだろうか。

 

しかし2009年には31基が新たに稼動した原子炉は、現在はわずか4基が建設中で新規建設のメドが立たないのが現実である。原子力産業が衰退していることは隠しようのない事実なのだ。20136月の時点で建設中の原子炉は66基だがこの中の4基の建設に10年以上、9基が20年以上かかっている。

 

 

世界の原子炉の45%にあたる190基は稼動後30年以上で、44基は稼働が40年を超える。1基の建設に要する建設期間は平均で9.4年であり、新規建設の計画が増えない限りは退役を置き換えられない。その根本にあるのはkWあたりの建設コストが1,000ドル(日本円にして約12万円)から7,000ドル(日本円にして約84万円)に跳ね上がったためである。

 

大型原子炉に関する限り成長は見込めない。ルネッサンスが可能だとすると小型原子炉分野になる。超富裕層が自己資金で小型原子炉を開発し採算性が取れるなら、投資先としては好機かもしれない。