人工葉でつくる合成燃料でエネルギー危機を回避

31.07.2016

Photo: Clean Technica

 

太陽光で水を光分解し同時に空気中のCO2と水素から炭化水素(ショ糖)を合成し酸素を放出する植物の光合成は、水分解と炭化水素合成のエネルギー障壁を太陽のエネルギーと酵素を用いて乗り越える。光合成の酵素を触媒で置き換え太陽光による水分解で水素と酸素を製造する人工光合成や光触媒の研究開発が活発化している。

 

ひとつには2050年の世界のエネルギー需要が倍増しエネルギー危機に陥る恐れがあるが、もうひとつ忘れてはならないのが、化石燃料に代わるCO2排出量の少ないエネルギー源である。1970年代にそのため原子力が救世主として登場したが、バックエンドと呼ばれる核燃料廃棄に見通しがつかず、チェルノブイリ、スリーマイル、福島第一事故により、環境汚染や健康被害が認識されると2010年を境に原子力ルネッサンスと呼ばれる復興はならなかった。

 

 

そこで注目されるのが水素エネルギーである。水素ガスを燃料とする燃料電池は水の電気分解と逆反応で生み出したエネルギーを電力に変換した時排出されるのは水だけで、理想的な新エネルギー源となり得る。小型化できるので自動車や飛行機の電源として使える。しかし社会が必要とする新エネルギー源となるには水素燃料の大量製造が必要となり、その製造によってCO2排出が増えるなら意味がない。しかし人工光合成で自然エネルギーを使って水素が製造できるのであれば、ゼロエミッションの水素社会は現実味を増してくる。

 

 

このほどイリノイ大学の研究チームが開発した人工葉は10%の変換効率でCO2の還元でCOにするもの。植物のエネルギー変換効率は1%ほどに過ぎないし、これまでの光触媒の変換効率は3%程度であったことを考えれば、飛躍的な進歩となる。太陽光パネルは太陽光のエネルギーの20%を電力に変換するが、今回の結果で新しい人工葉により水分解とCO2の還元が従来に比べて大幅に効率良く行えることになった。

 

 

Credit: Credit: Chem. Mater.

 

イリノイ大学はタングステン2セレン化物(上図)のナノフレークを触媒として用いることによって、炭化水素鎖の合成ガス(水素ガスとCOの混合)を作り出すことに成功した。この触媒は従来のものに比べて12,000倍高い効率を有している。実際にはコスト比で20-30分の1であるので、実用化に一歩近づいた結果と言えるだろう。変換効率の向上には表面積を増大させたナノシートにしたことがポイントである。このナノシ-ト、ナノフレーク光合成触媒を排出CO2ガストラップに用いて工場排出CO2を合成燃料に変換できるようになる。同様のシステムはアウデイの提案がある(関連記事参照)。

 

先にハーバード大学のNocea教授はシリコンの両面を触媒薄膜に接合した太陽光水分解セルを「人口葉(Artificial Leaf)」と呼び、安価な光触媒デバイスとして提案している(関連記事参照)。太陽電池の起電力を使った水分解システムは他にも数多く提案され活発に研究開発が行われている。問題点はまだ変換効率が低いことと触媒金属として用いられる白金のコストが高いことであるが、後者についてはNocea教授の非白金触媒は安価で低コストの水分解セルが製造できることが何よりの特徴だと指摘する。

 

 

大規模な燃料製造には向かないとして批判する研究者もいる。オバマ世間はこのほどこのテーマに90億円を投入することを決めた。それだけ将来のエネルギー需要に危機感を持っているということである。100基の原子炉は大半が老朽化しているが更新の可能性は低いとなれば電源構成の30%を失う。またシェールオイル・ガスが底をつけばエネルギー危機は回避できない現実である。