グラフェンで作るフォトニックマイクロチップ

16.06.2016

Photo: MIT

 

 

MITの研究グループはグラフェンの表面を光が伝わる時にジェット機が音速を突破する際に発生する衝撃波のような光の衝撃波(チェレンコフ光)を生じることを発見した。この光発生は電子の代わりに光でマイクロチップを駆動するフォトニクスチップに使えば、100万倍も高速化が可能になると期待されている。

 

媒質(グラフェン)中で速度が真空中より遅くなった光より高速の電子と相互作用して異なる2方向に進む光が発生する。研究チームはグラフェン膜に光を照射した時に、その速度がこの現象に適切な速度に低下することを見出した。グラフェン中では電子の速度が高いた、遅くなった光の速度はグラフェン中の電子の速度に近くなる。

 

そのため両者の相互作用が大きくなる。しかし研究チームは光がグラフェンの準位に捕捉されるという一般的な光吸収ではなく、逆に発光現象が起こると考えている。グラフェン中の電子速度が光速に近づくとそのような現象(チェレンコフ発光)(注1)が起こる。

 

(注1)荷電粒子が物質中を移動する時にその速度が物質中の光の速度より速い場合に光(チェレンコフ放射光)が発生する。

 

 

Source: schoolphysics

 

チェレンコフ発光は80年前にソ連の科学者チェレンコフが予想したもので、原子炉の炉心が青色に発光する現象である。光速に近い粒子がないと発光しないためこれまでは、原子炉など一般的な環境では無縁の存在と思われていたが、グラフェン中の電子の移動度が高いことを利用すれば、現実的な環境となる。

 

応用としてはチェレンコフ発光をフォトニクスチップ(光で駆動するマイクロチップ)が考えられる。現在、限界に達しムーアの法則が破綻した電子マイクロチップに代わり、発熱のないフォトニクスチップでは微細化がさらに進み高速な演算が可能となる。

 

電子と異なり光導波で回路を作る難しさは解決しなければならない課題だが、高速演算が可能なフォトニクスチップが期待されている。現在のマイクロチップの熱密度が原子炉の中心と同程度に達しているが、原子炉でしか観測されないチェレンコフ発光でマイクロチップを駆動する時代が来ようとしているのはなんとも皮肉な話である。

 

 

Source: Idaho National Laboratory