豪中接近で加速する中国の太平洋進出

07.05.2016

Photo: CNN

 

フランスに発注した潜水艦

オーストラリアが配備する12隻の潜水艦受注は前政権で確実とみられていた日本の「そうりゅう」型潜水艦ではなく、米国海軍の推薦にもかかわらず原潜の改造案で臨んだフランスが、受注した。表向きには現地建造で雇用対策を優先したと見られるが、その裏には親中派のターンブル首相に対する中国の圧力があった。ステルス性能に優れた「そうりゅう」型潜水艦が米海軍と密接に運用されれば、太平洋進出への抑止力となる。地元メデイアが予想していたことであるが、実戦配備されていない装備(注1)の調達は前例のないこと。オーストラリアにとってリスクのある軍備計画となる。

 

(注1)仕様の細かい決定過程で建造予算は大きく変わる。細かい仕様が決まっていない開発中の「価格」は過小評価されることが多く、最終仕様が決まってから建造コストが高騰する。原潜改造の仕様は白紙で詳細を詰めていけばコスト高騰は必至である。韓国がUAEで建設している原子炉は建設の遅れで遅延金問題に発展し、最近では造船契約を破棄された例がある。

 

 

ダーウイン港の租借権

今年(2015年)に入り中国のオーストラリアへ進出は際立っている。北部準州政府がダーウイン港の99年間にわたる租借権を37000万ドル(日本円で約4,300億円)で中国に売却した。

 

 

Source: The Australian News

 

ダーウイン港は米海兵隊の拠点で太平洋対岸の南シナ海における中国の軍事基地設置をめぐり、日米とオーストラリアが中国の動きを封じ込めるための要衝となっていた。売却した中国の企業(Landbridge)は港湾開発の企業で中国政府は港湾のインフラ整備の純粋な民間事業であるとしているが、海兵隊基地の対岸に中国が居を構えることに米政府は強く反発している。

 

 

港湾インフラ整備に大盤振る舞い

中国は港湾整備に2億5000万ドル(約300億円)をつぎ込む。さらに地元の小学校に100万ドル(約12000万円)で教室を整備するなど、公立の教育関連施設に5,800万ドル(約58億円)の経済刺激対策に盛り込む。このような中国マネーで地方が潤うこと以外にターンブル首相と中国の個人的なつながりが深い。

 

 

土地を買いまくる中国人

さらにオーストラリアの土地を買い漁る中国人が増えて物議を醸している。不動産のオークションに中国人が大挙して参加し、土地を買いまくる現象が起きている。最近、中国人投資家家がオーストラリアの1%に当たる広大な土地を買収した。オーストラリアはグリーンカードがなくても外国人が土地を購入できる。国内で土地の永久所有権がないため中国の富裕層は、格好の投資先として政府が関係強化に努めているオーストラリアに目をつけた。地元の人が手が出ない土地を一人でまとめ買いをする中国人は反感を持たれているが、おかまい無しである。

 

 

Source: Financial Review

 

 

 

軍事的にもダーウイン港は太平洋の日米・オーストラリアの合同演習の拠点でもあり、潜水艦購入先をフランスにしたことで米国から供与される兵装がダウングレードされ、脆弱になれば軍事バランスが崩れる。大量の土地を中国が所有することで、大陸防衛と太平洋の安全保障が危惧されている。過去の大戦の影響が少なかったオーストラリアだが、中国との関係強化は独立性を損ないかねない。海外の中国投資の多くは(ニカラグア運河のように)失敗している。